2016-01-01から1年間の記事一覧

耽典籍:男性への殺人だけが、見えない塩になる。『男性権力の神話 《男性差別》の可視化と撤廃のための学問』ワレン・ファレル(作品社)

楔はどこか。 女性活躍やダイバーシティやマイノリティのエンパワーメントなどを謳っていて、男性正社員モデル(「箱入りおじさん」層)にメスを入れようとしないのは怠慢だと思うけど、最近はそういった男性へのアプローチもだいぶ増えてきた。 働き方とい…

祖父の遺品と、家紋の謎

家紋のカフスなんて超絶ダサい代物だけど、祖父の遺品とくれば遠慮なく受け継ぐに限る。 僕の一族的ルーツは、鎌倉期より秋田県と山形県の境あたり、鳥海山と日本海にはさまれた出羽国由利郡に土着していた国衆、打越(内越)氏にある。 打越氏は風雅な山間…

耽典籍:人生のゲーミフィケーションはヒューマニズムの戦術か、イスラエルでも。『あの素晴らしき七年』エドガル・ケレット(新潮クレスト・ブックス)

うんざりするような現実もある。テロの続く戦時下のイスラエルではなおさら。 でも、ささやかで静かな生活がある。息子が生まれたり、妻にダイエットを勧められたり、仕事のためタクシーに乗ったり、父が死んだり。希少で、人間的な生活。 テロや戦争や政治…

耽典籍:どこともつながっている辺境が増殖する世界の文学。『ターミナルから荒れ地へ』藤井光(中央公論社)

10月にノーベル文学賞が発表されるころになると気になるのは、「村上春樹は受賞するのか?」ではなく、「アメリカ文学は受賞するのか?」だったりする。 アメリカ文学の作家は、トニ・モリスン以来ノーベル文学賞を受賞していない。1993年以来ずっと。 (北…

愛と含羞の西武鉄道

(2014年4月24日 ) 高田馬場で幼少期をすごした者にとって、一番のアミューズメントスポットは駅前のビッグボックスだった。 もう四半世紀前にもなるが当時のビッグボックス1階には噴水があり、奥にはマクドナルドがあり、またアイスクリーム屋さんなんかも…

耽典籍:戦争より大きい人間を感じるには、ドキュメンタリーか詩か。『戦争は女の顔をしていない』スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ(岩波現代文庫)

驚くほどに何の感想もなく、驚くほどに何も浮かばない。 2015年ノーベル文学賞受賞者、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチのデビュー作『戦争は女の顔をしていない』(岩波現代文庫)。 戦争は女の顔をしていない (岩波現代文庫) 作者: スヴェトラーナ・ア…

耽典籍:医療を医者に預けるな、エシカルをブランドに預けるな、キャリアを会社に預けるな。 『一流患者と三流患者』上野直人先生(朝日新書)

友人武田真優子氏の友人であり、今度Perfumeのライブにご一緒させていただく、MDアンダーソンがんセンター腫瘍内科医兼Perfume依存症患者(by武田氏)の上野直人先生のご著書。 『一流患者と三流患者』上野直人先生(朝日新書)。 一流患者と三流患者 医者か…

耽典籍:新社会人となった友人へ。 『言われた仕事はやるな!』 石黒不二代(朝日新書)

<2014年3月31日のノート転載> 僕は28歳まで学生をだらだら続けながら、ニートのようなフリーターのような生活を送っていて、まともな「就職」をして「初出勤」したのは忘れもしない2008年4月7日月曜日のことだった。 出勤の前日は、なにしろ28年間も風来坊…

今年の桜はどこで見ますか?誰と見ますか?来年の桜はどこで見ますか?誰と見ますか?

28歳まで、僕は会社に就職したことがなかった。 2008年、28歳の3月末、4月から会社員となることが不安で、悲しかった。 毎日同じ電車に乗って、毎日同じ場所に通い、一日中同じ椅子に座って、一日中同じ人と顔を合わせて、一週間を過ごすなんてことが、それ…

耽典籍:旧セゾン経営者の修羅場渡り術。『吉野家で経済入門』安部修仁・伊藤元重(日本経済新聞出版社)

吉野家がセゾングループだったことを、どのくらいの人が覚えているのか。 最近はそもそもセゾングループの説明からしなきゃいけないのが悲しいけど・・・僕がセゾンで働いていたときは、師匠に「牛丼買ってきて」と言われたときは当然吉野家の牛丼を買ってい…

耽典籍:「国際女性デー」に、男性の性被害について思う。『リベンジポルノ』渡辺真由子(弘文堂)

3月8日は「国際女性デー」。 今年は特に何のアクションにも参加できなかったな、、せめて本でも、、と昨年末からに積ん読になっていた一冊を。 『リベンジポルノ』渡辺真由子(弘文堂)。 リベンジポルノ―性を拡散される若者たち 作者: 渡辺真由子 出版社/メ…

耽典籍:有機的組織の血液循環を促す「聞く」技術。『エンゲージド・リーダー』シャーリーン・リー(英治出版)

平行して読んでいた『ホラクラシー』ブライアン・J・ロバートソン(PHP)と、この『エンゲージド・リーダー』は表裏をなす本だと思った。 『エンゲージド・リーダー』シャーリーン・リー(英治出版)。 エンゲージド・リーダー ―― デジタル変革期の「戦略的…

耽典籍:「難民高校生」文学に潜む戦争の影。『キリンの子』鳥居(KADOKAWA)

文学は、人道的なものではない。 人間という存在の極限を追及することが文学であるならば、人がそのような場でどのような言動をし、表情を浮かべ、心情を抱くのかを、いかに悶え苦しむのかを叙述することが営みとなる。感傷の入る余地はない。 言うなれば、…

徒然妄念:ばあちゃんのフリースがもう限界かもしれない

僕が部屋でどんなかっこうで過ごしているのか、見たことがあるのは、両親をのぞけばドラえもんが指折り数えられるほどの人数しかいない。 冬は、いつも小汚いフリース(女物)を着ている。17年間、着続けている。 この超絶ご愛用のフリースが、もういい加減…

徒然妄念:挽花/「星の王子さま」

ふとしたことで、『星の王子さま』を再読する。 こんなにも絶望に満ちた物語だと、子供のときは思わなかった。 「だれかが、なん百万もの星のどれかに咲いている、たった一輪の花がすきだったら、その人は、そのたくさんの星をながめるだけで、しあわせにな…

耽典籍:ビジネス・社会貢献が両立する社会が本当の社会システム。『人生の折り返し地点で僕は少しだけ世界を変えたいと思った』水野達男さん(英治出版)

ギャップ埋めること。 企業人としてタフなビジネスの世界で活躍してきた男性が、50歳を過ぎてから社会貢献事業に生涯を投じる。そこにはどのような心境・環境の変化と、ギャップと、跳ぶ覚悟があったのか。 水野達男さんに、そこを聞いてみたかった。 英治出…

耽典籍:『身施』としてのプロボノと、タイの開発僧と、健康経営。『自由に生きる』プラユキ・ナラテボー(サンガ)

タイに進出している日本企業に健康経営の指導をしているMarimo5の大和亜基さんから、タイでは社員のメンタルヘルスのために僧侶を会社に招いて法話をしてもらう、と聞いて、驚いたとともに納得した。 仏教はライフスタイル哲学の側面もあるから、信仰が生活…

耽典籍:イエ制度という亡霊と、息子の他者性と。『家族幻想 ー「ひきこもり」から問う』杉山春(ちくま新書)

『ひきこもることも、不登校も、命がけのクリエーション(創造)だ』という一節が心に残る。 異論もあるだろうけど、僕自身も大学を中退し、あらゆるものから逃避していた時、それは単なる逃避ではなく生きるための術だったと思う。命がけの。 「ある母親は…

徒然妄念:俗にして贋だが、卑ではない

2月になって、やっと頭が2016年になってきた気がします。 つらつらと我が身を省みるに、自分の本性としてはディレッタントで、スノッブで、ペダンティックという俗物・贋作性が強い。 そんな俗物性、贋作性を、ちょっと忘れていた気がする。それはハングリー…

耽典籍:どうして人類は、そんなにまでして「同性愛」を「診断」したかった/されたかったのだろう。『同性愛は「病気」なの?』牧村朝子(星海社新書)

笑っちゃいけないんだろうけど、妙に笑えた。 人間は滑稽だ。その滑稽さの裏には、何があるのだろう。恐れか、不安か。そして、滑稽は残虐の双子にもなる。滑稽さの下に、血の川が流れる。 『同性愛は「病気」なの?』牧村朝子(星海社新書)。 同性愛は「病…

耽典籍:あの娘の主夫に、なりたくて。『「専業主夫」になりたい男たち』白河桃子さん(ポプラ新書)

大学のとき、マジで専業主夫になりたいな、と思ってた。 だって、周りにいる女の子が僕なぞよりずっと頭もよく、世界を見るセンスもよく、バイタリティーもある、ときには腕力の喧嘩でも僕より強い、要はほとんどの点で僕より格上な子だったんだもん。 (具…

耽典籍:ボノボやAIを少数民族と呼ばないのはなんでだろう。『世界を動かす少数民族』高やすはる(幻冬舎)

僕のかかわるEDAYAは、フィリピン北ルソン島の山岳少数民族カリンガのみんなと取り組むプロジェクト。先日も、カリンガから3人の若いメンバーが来て、日本のみんなと交流していった。 少数民族の暮らしや文化とか、現代にどう適応していくのかとかの話は大事…

耽典籍:日陰者を、否認せず黙認せず公認せず「容認」するソーシャルインクルージョン。『性風俗のいびつな現場』坂爪真吾さん(ちくま新書)

ベッ〇ーのおかげで、前著『はじめての不倫学』が売れてらっしゃるに違いない坂爪真吾さんの新刊。 『性風俗のいびつな現場』坂爪真吾さん(ちくま新書)。 性風俗のいびつな現場 (ちくま新書) 作者: 坂爪真吾 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 2016/01/07…

耽典籍:ハイブリッドキャリアはマタハラを覆滅するか。『マタハラ問題』小酒部さやか(ちくま新書)

吐き気がする。 小酒部さやかさん並びにマタハラNetを知ったのは、やはり昨年アメリカ国務省の『世界の勇気ある女性賞』がきっかけ。その後、記事やリリースは読んでいたけど、ご本人がマタハラに遭ったときの詳細は、初めて知った。 読んでいて吐きそうにな…

耽典籍:コソヴォ、ルワンダ、アマルティア・セン、エンパワーメント、多様性。『聞き書 緒方貞子回顧録』(岩波書店)

『聞き書 緒方貞子回顧録』(岩波書店)。 聞き書 緒方貞子回顧録 作者: 緒方貞子,野林健,納家政嗣 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2015/09/11 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (1件) を見る コソヴォという地名を知ったのは、ポーランドのノーベ…

安藤昭太さん(株式会社カルミナ)が拓く、IT×社会事業の可能性と、受け取る手について。

熱い想いを持っていても、届ける手を伸ばせなければ意味がない。届ける手を伸ばしても、受け取る手が伸ばされなければ意味がない。 当たり前のことだけど、忘れてしまう。ソーシャルセクターにいると特に。 何より大事なのは受け取る手のこと。社会、すなわ…

LGBT成人式で思い浮かんだ徒然。誰もがそれぞれに生きにくい、その生きにくさを大事にする、大事にしあう社会。

LGBT成人式、今年も行ってきました。当事者の方の式辞はもちろんだけど、家族・周りの人の式辞がまたも感慨深かった。 ・・というちゃんとした感想は後日として、走り書きで徒然に思い浮かんだこと。 生きやすい社会を目指すことは大前提だけど、ほんとは生…

難民と、僕の先祖のディアスポラ:SOIF大人の寄付あそび「紛争・難民」

www.facebook.com 鎌倉以前にも遡れる、僕の先祖の打越氏(内越氏)は、秋田県と山形県の境の矢島地方に根を張り、由利十二頭と呼ばれた。 長く暮らしたその土地を、徳川政権の樹立期に突如追われる。中央政権の都合で。 徳川幕府の目障り、常陸の佐竹氏を追…

東大を駒場で中退した僕が、14年ぶりに駒場で講義を聞いてきて、惰弱さに憤る話

(偏見とルサンチマンによる妄言) 中退したことのない人にはわかるまい。 中退した人間が、元いた学校の教室に座り、講義を聞くことへの心理的ハードルの高さを。。 先日、LGBTアクティビストの方たちによるIVLP報告会というものに参加しました。ぜひ聞きに…

米国LGBTの現状:IVLP報告会、組織の中のマイノリティ当事者団体の活動などなど

米国での、LGBTの社会包摂や権利擁護の現状は? アメリカ国務省が企画する人材交流プログラムであるIVLPに、日本のLGBTアクティビストの皆さんが招かれ、米国各地を巡ってこられたそうで、その報告会を聞いてきました。 今年一番刺激的で学びが多かったので…