耽典籍:旧セゾン経営者の修羅場渡り術。『吉野家で経済入門』安部修仁・伊藤元重(日本経済新聞出版社)

吉野家セゾングループだったことを、どのくらいの人が覚えているのか。

 

最近はそもそもセゾングループの説明からしなきゃいけないのが悲しいけど・・・僕がセゾンで働いていたときは、師匠に「牛丼買ってきて」と言われたときは当然吉野家の牛丼を買っていくのが常識だった。一度、吉野家が4ブロックくらい先で、松屋がすぐ隣にあったので松屋で済ませたら悲しい顔をされたので、、とても反省した。

 

師匠はセゾングループを愛していたし、僕もセゾンの末裔の端くれという矜持と憧憬があった。

 

そんなセゾングループ時代から生き抜いている、伝説的経営者(なんじゃないかと思っている)安部修仁さんの対談本。

 

吉野家で経済入門』安部修仁・伊藤元重日本経済新聞出版社)。

吉野家で経済入門

吉野家で経済入門

 

 

第2弾で、前の本では吉野家の値付けの秘密とかがメインだったけど、今回の本はいかにしてBSEを乗り切ったか、他社の追随に対処していくか、人材を確保していくか、という話しが書かれていて、ずっと面白い。

 

経済入門って題だけど、倒産~旧セゾン~伊藤忠下時代を経て、修羅場をくぐってきた経営者による経営の本かと。

 

個人的な所感だけど、企業の経営者がらみの本って2冊目の方が面白いことが多い気が。1冊目は、こんな感じで成功しました~って内容だけど、2冊目はその後のもがき苦しみが書かれているので、読み応えがある。柳井さんの本も、『一勝九敗』よりも『成功は一日で捨て去れ』の方が15倍くらい面白い、、と思うよ。

 

BSE対応の修羅場、必死の商品開発やフランチャイジー対応について等々と、追随他社との価格競争については、もうちょっと客観的にじっくり書いたものを読みたいと思った。

 

とはいえ、牛肉輸入禁止が12月24日という年末ギリギリに決まって、東証にも報告しなきゃいけない、フランチャイジーにも方針を明確にださなければいけない、という段はハラハラした。きっと壮絶だったんだろうなぁ・・。

 

参考になるのは、発注・調達においてきちっとスペックを決めて要求することを最重要としている点。

 

「商品に一番適合するように、品質も素材の特徴も価格も量も厳密に仕様を決めること。そして、そのスペックに合うようにきちんと相手に要求すること。」

 

ビジネスをやっていて、意外と意識したことがなかったので参考になった。というか、発注側の傲慢みたいに感じられなくもないけど、これがきちんとしたコミュニケーションなんだろうな、と思った。

 

人事がらみの仕事をしている身としては、もう「外食産業はブラック」とは呼ばせない、とつけられた6章が一番気になった。

 

バイトも社保にいれて、有給休暇も付与して消化させているとうのは、立派だなと思う。いや、法的には当たり前だけど、できていない所も多いでしょう。フランチャイジーでもこれは守られているのかな?

 

離職率低下という話題も、そうだよなと思った。飲食や小売店にとって、長期で働いてくれる方の価値といったらこの上ないので、それを戦略事項だと言いきれるのは頼もしい。それができずに、業界全体の評価をさげてしまった企業もありますからね・・。

 

僕もかつて飲食の人事をちょこっとやったけど、そこで偉いなと思っていたのは、新メニューの開発の時に必ず、店舗のキッチン・ホールのスタッフの作業量がどのくらいになるのかを考えていたこと。

 

店舗のスタッフに過剰な手間をかけさせたり、調理できる人材が足りてなかったりするメニューは、導入されなかった。

 

どんなに美味しいメニューを考えても、それが店舗のスタッフの多大なる負担になってオペレーションが崩壊してしまうなら、意味がない。というか、かえってお客様に変なものを提供することになって、ブランド価値も落としてしまう。

 

僕はそもそもお酒を飲めなかったので、居酒屋メインのその会社に対する帰属意識を持ち切れず退職したんだけど・・まぁ基本的なところはしっかりしていたな、、と思い返したのでした。。

 

ちなみに、この本を読んだ後に誰もがとる行動は吉野家に牛丼を食べに行くこと、だと思うけど、、近所には松屋しかなかった・・。