20年目の『終わりと始まり』
一番好きな詩集、ポーランドのノーベル賞詩人ヴィスワヴァ・シンボルスカの『終わりと始まり』。人に勧めたのを期にまた手にしているけど、97年の初版だからもう20年も読み続けていることになる。
戦争の悲惨があった土地名を連ねながら、それでもその上に人はささやかな日常を積み重ねることを詠う『現実が要求する』という詩を、何度読みかえしたことか。挙げられた地名にアフリカやアジアはないが(ヒロシマだけ)、今ではルワンダやコンゴ、シリアやカチン州を思わずに読むことはできない。
巻末のノーベル賞授賞講演がなにより好きで『伝道の書』にある「太陽のもと、新しいものは何ひとつない」というテーゼへの反駁は幾度もよすがとしてきた。
震災の後で、この詩集にひかれる人が増えたらしいが、生老病死や争いや愛という人の営みが消えない限りは色褪せない本だと思う。