耽典籍:潜在化してこびりついたジェンダーギャップ解消のために。『男も女もみんなフェミニストでなきゃ』チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ(河出書房新社)

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ナイジェリアの作家、チママンダ・ンゴズィ・アディーチェのTEDxトークにもとづく本書は、ジェンダーによる差別が横行する社会より、それが潜在化してこびりついてしまった社会により意味を持つ。

 

ジェンダーギャップ指数が世界111位の日本のような。

 

社会で主張できていると思っている女性でも、またそれに協力的だと思っている男性や組織でも、意外と多くの足枷を残したままであることは、ギンカ・トーゲル著『女性が管理職になったら読む本 ―「キャリア」と「自分らしさ」を両立させる方法』などにデータとして詳しいけれど、本書もそれと同様のことを平易なエピソードで伝える。

 

陥穽があるのだろう。表面的な女性差別は少ない。頑張っている女性も目につく。社会もそれを支援する風潮もある。だからそれでいいと思ってしまい、小手先で満足してしまって、みなジェンダーギャップの根にまで目を向けないですましがち。

 

自戒があって、マタハラnetさんの研修で6人組くらいのテーブルに分かれてディスカッションをした後で、各テーブルをリードしたファシリテーターは誰だったか手を挙げさせられたら全テーブル男性だった。僕も手を挙げた一人。

 

マタハラnetさんに来るくらいなので、ジェンダーについて意識的な男性たちである。そして参加していた女性たちも仕事ではリーダーを務める方たちが多かった。にもかかわらず、テーブルでリーダーをと言われるとごく自然に女性が遠慮がちになり、男性がでは私が、、と引き受けたことになる。

 

ジェンダーギャップの根は深いというか、ほんと潜在化してこびりついてるなぁと思った。

 

「(女性が社会で認められるのが)難しいんだってのがよくわからないな。むかしはそうだったかもしれないけれど、いまは違う。いまじゃ女性にとっては何もかも申し分ないじゃないか」と、聡明で進歩的な知人でもそういう思考停止なことを言ったと本書にあるが、気を付けなければ。

 

思うのだけれど、「私は女性の味方ですよ」とか言う人ほど、自分たちが受け入れやすい範囲でのみ女性の地歩を認めて、結局はジェンダー差をより潜在的に固着させようとするやっかいな敵だったりするんじゃないのかな、、とか。ちょっと滅裂だけれど、本書を読みつつそんなことを考えた。

 

一番なるほどと思ったのが、男性について。

 

男の子の育て方では、「男の子の人間性を抑圧しているのです。私たちは男らしさを「とても」狭い意味に考えています。男らしさが固い小さな檻になって、この檻のなかに男の子を閉じ込めているのです」。そのことで「彼らに「極めて」脆いエゴをもたせてしまう」。

 

これは田中俊之先生による「男性学」の領域で、いわゆる「男はつらいよ」問題が挙げられている。男らしさというマッチョイズムの檻に自らを当てはめようとして、自殺率を高める男性の姿が描かれている。日本でもナイジェリアでも同じなんだなと思った。

 

ユニークなのはその後。「そうしておいて女の子には、もっと甚大な危害を加えています。男のその脆いエゴの欲求を満たしてやれと彼女たちを育てるのですから」。

 

男はつらいよ」問題についてはいろいろと考えながら、それが女性への抑圧とどう連動するのかはほとんど考えてこなかったので(ただ単に僕の思考力が貧相なだけだろうが)、これは目鱗だった。

 

「男らしさ」という檻に押し込められた男性の自我のゆがみが、女性への抑圧を引き起こすというのは確かにと思いいたることがある。それでは、やっぱり「男性学」アプローチはすごく大事なのかなと思うし、男性側からやれることは数多い。

 

潜在化してこびりついたジェンダーギャップ解消のために、「男らしさ」をどこまで解消できるのか、取り組んでみても面白そう。

 

最後に、タイトルが「男も女も~」となっていることが気にくわない、という人がいるだろう。英語タイトルは『We Should All Be Feminists』なので、男も女もない。まあ日本語題としてキャッチーにしないとという配慮なので、理解したい。

 

大事なのは本書内でしっかり、性別は関係ない、「ジェンダーについては今日だって問題があるよね、だから改善しなきゃね、もっと良くしなきゃ」という人がフェミニストだ、そしてそれはみんなじゃなきゃ、と書いてあることで、男だ女だを超えた人間を見据えているのだなとわかる。

 

チママンダ・ンゴズィ・アディーチェの小説、買ったけど読んでないんだよね、読まないと。。

 

『男も女もみんなフェミニストでなきゃ』チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ(河出書房新社)。

 

男も女もみんなフェミニストでなきゃ

男も女もみんなフェミニストでなきゃ