耽典籍:「働かない」女性を管理職に。『輝く女性のための女性活躍推進ハンドブック』清水レナさん(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

輝く会社のための 女性活躍推進ハンドブック

輝く会社のための 女性活躍推進ハンドブック

 

「女性活躍」という言葉からは、人により思い描くことが異なるだろう。

 

僕は、「人口が減少するなかでの就業率の維持」、「女性の進出時期と雇用の流動化時期が重なったことによる不安定就労の増加・貧困化」、そして「男性不況(製造や建設など男性的雇用の減少・不安定化)との関連」などを想起する。いずれも、バラ色とはいい難い。

 

人によっては、「いきいき活性化された職場」や「新たなビジネスやマーケットの創出」などを連想するだろう。が、僕はどうしてもシビアな社会的背景に気が向くたちなようである。

 

そんな、社会学ぶりたい人に恰好な「女性活躍」の本としては、『女性はなぜ活躍できないのか』大沢真知子東洋経済新報社)がある。女性の雇用環境の変化を追いながら、貧困問題などにも目くばせしつつ、男性の意識や日本的雇用慣行を変えていくことを説いた本。良著。

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が、社会背景を知り、あるべき論に頷いても、人事や経営者などの企業人は自社の現状を鑑み、途方にくれてしまうはず。なんせ、「女性活躍推進法」により来年4月までに自社の行動計画を策定しないといけないのだから。

 

「女性活躍」の本だと、他には「こんな会社でこんな素敵な取り組みがありますよ、ロールモデルがいますよ」みたいな本が多く刊行されているけど、これも人事が途方にくれる系だと思う。他社はすごいけど、ウチじゃねぇ・・みたいな。

もっと、企業の人が実務で使える、かといって表面的ハウツーではない本が欲しい。

 

と、いう点で、清水レナさんの本は優れていると思う。

 

『輝く女性のための女性活躍推進ハンドブック』清水レナさん(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。

 

前半で日本の女性活躍、女性の就労状況を分析し、中盤以降で自社の状況を診断してパターンに応じた具体的施策を参照できるようになっている。昇進意欲と時間制約を縦横に置いたマトリクスは、使いやすいと思う。

 

・・いや、清水さんとお知り合いなのでステマしている、というわけではなく、本当に。

 

そもそも、女性に限らず人の活用というのは、一朝一夕にはいかない。明日、女性管理職率を上げたいと思って中途採用に狂ってもしょうがない。失恋休暇やバーゲン休暇を作って、女性も働きやすい会社とうそぶいても恥ずかしい。

 

10年後、どんな人材にどんな役割を担っていてほしいかを描いて、退職などの歩留まりを考えて採用し、経験を積ませて育て、しかるべき時に機会を与えて伸ばしていかないといけない。気の長い投資。

 

清水さんの本は、そんな長期的視座を持って、いかに女性社員の能力を引き出していくかがちゃんと書かれているな、と思う。

 

いろいろな課題例に応じた施策も書かれているが、面白いのが「時短社員も管理職に登用したい」というケース。これは今後たくさん出てくると思う、というか出てきてほしい課題だと思う。

 

「女性活躍」に限らず、「パラレルキャリア」とか「健康経営」とか「生産性向上」とか・・・時代の変化に応じた新しい働き方、生きやすい働き方を考えると、終局は長時間労働の問題に行き着くんじゃないか、と思っている。

働きすぎ、というより会社に拘束されすぎ、じゃないかな。そこが変われば、いろいろ良い変化が生まれるんじゃないかな。

 

そう思って、先日は『2030、私たちはどう「働かない」か』というイベントを開催した。この「働かない」は、ニートとか、FXやってハッピーリタイアとかの意味ではない。18時までバリバリ仕事をして、時間になったらピタっと「働かない」モードになって仕事は止めて帰社して、子供を迎えに行って家族と過ごしたり、NPOに顔を出したり、みたいな「働かない」。

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ワークスタイル変革、時代の変化に応じた新しい働き方には、この「働かない」がキモになってくるんじゃないかと思う。「働かない」方法を活かした働き方。

 

活躍しているワーキングマザーは、本当にこの「働かない」が上手い。その先には、「時短社員も管理職に登用したい」という話題が出てくると思う。

優秀だけど16時に帰社するとか、週3勤務とかの女性(別に男性でもいい)を管理職にする。そんな働き方をちゃんと評価して、チームもマネジメントできる体制にする。

 

難しいと思うけど、実際に週3勤務でご活躍の女性経営者などもいらっしゃるし、工夫して取り組めばできると思う。「女性活躍」によってこういう「時短マネジャー」のケースが増えてくれば、それは男性にも適用されて、誰にも働きやすい柔軟でフェアなしくみになってくるんじゃないかな。

 

「働かない」女性を管理職にどんどん昇任させるようになったら、面白いな。