耽典籍:過去・未来の認識から、綱吉評価、切腹自殺まで、ソマリランドと室町の比較文化。『世界の辺境とハードボイルド室町時代』高野秀行・清水克行(集英社インターナショナル)

まず題名がスゴい。

現在ソマリランド・辺境と、中世室町・江戸の日本の共通項から、なにかを浮かび上がらせる瞠目に値する一冊。

 

『世界の辺境とハードボイルド室町時代高野秀行・清水克行(集英社インターナショナル)。

世界の辺境とハードボイルド室町時代

世界の辺境とハードボイルド室町時代

 

しなやかな知、の蓄積がいかんなく盛り込まれていて、興味深い点が多々だけど、一番へえぇっと思ったのが「サキ」と「アト」は過去と未来のどちらを指すか、という話。

 

中世までは「サキ」は過去で「アト」は未来(未だ来ず)だったが、16世紀以降は「サキ」に未来の意味、「アト」に過去の意味が加わってくるとのこと。未来を「目の前に広がっている」制御可能なものとする認識が広がってきた、神から人への移行と位置付けている。

そこから「バック・トゥ・ザ・フューチャー」という表現考などがあり、考え出すと止まらないネタだと思う。

 

その他、綱吉評価なども面白かった。「生き物を大事にしましょう」みたいなユニバーサルな価値観を支配の根底においた為政者、という見方が示されている。確かにそう考えると、綱吉はメタレベルの世界観ってものを持っていた人かもな、と思う業績はあり、さすが水戸黄門が評価していただけの人物だったのかもしれない。

 

男色の利便性とか、アフリカの呪術と古代の神判の話こととか、ネタ満載で読む人それぞれにグッとくる箇所が違うはず。

 

本の最後に、自殺の比較文化が出てくる。ソマリランド等々、自殺のしがいがない、負けを認めることになるので抗議の自殺なんかもない社会・文化が多い、というのはフーンと思った。

僕自身は、自殺抑止の活動に賛同しつつも、子供のころの時代劇の見すぎのためか日本的な自殺観から抜け出せないでいる。切腹って、文化というか人生観・死生観を含んだ思想として根付いちゃってると思う。

そこら辺を考えるのに適している本なのか、ちょうど講談社現代新書より『輪廻転生』という本が出たので、この『世界の辺境とハードボイルド室町時代』のアトで読みました。