耽典籍:自分を慈しむための魅力。『魅力の正体』池原真佐子さん(大和書房)

 

f:id:tetsuji178:20170531233348j:plain

自信をもてと言ってみても、自信はサプリメントで補えない。毛布をもてば安心できるかもしれないが、知恵あるライナスだって自信があるようには見えない。というかライナスは自信がないタイプだろう。

 

「自信がないんです」と相談してくるのは女性が多い。日本には、いや世界には女性をディスカレッジするしくみが顕在潜在にまだたくさんあって、自信をもてないように仕向けられやすいから。本書にもある、素晴らしい才能や実績がある女性でも自己評価が低く、優秀さを認められても人を欺いている気持ちになってしまうという「詐欺師症候群(インポスター・シンドローム)」はその典型。

 

(あ、でも男性は自信があるというわけでもなかろう。自信がないことに気づかないか気づかないふりをしているか、気づいていても人に言えないのだ。男らしくないから。)

 

「自信がないんです」に対しては、あいまいに微笑み頷きながら「大丈夫ですよ」などと言うしかなかったが、これからはこの『魅力の正体』を勧めればいい、かもしれない。

 

魅力と自信。

 

本書では、「どんな時でもサバイバルしていけるという「自信」と、その自信をベースに人を巻き込みながら「望むキャリア」を手に入れるための「魅力」」という並列の書き方をしているが、二つはニワトリと卵の関係だろう。

 

もちろん魅力もないのに自信たっぷりの人や、魅力あふれるのになぜか自信がない人もいるが、本来は自分の魅力をちゃんと知って、それが他の人に伝わっていることを信じることが自信なのだと思う。


魅力とは、自分を周りの人に受け入れてもらう力だ。

 

そして、自分の魅力をちゃんと知るということは、おそらく自分を慈しむということにつながり、セルフ・エスティームにつながる。『魅力の正体』が、多くの人に自分の魅力をちゃんと知るきっかけを与えて、自信につながり、自分を慈しめる人を増やす手助けになればいいなと思う。

 

本書の間違った使い方。

 

『魅力の正体』の著者、池原真佐子さんは、真面目で明晰な人だ。だからこの本も、魅力というつかみにくいナニモノカをFascinationQuotient(魅力指数)と見定め、外見、しぐさ、オーラと因数分解して真面目に明晰にそれぞれの指数を高める方策を伝えている。オーラなんてアヤシゲなものまでちゃんと分析して解説して実践法を説いているので大したもです。

 

間違った使い方は、そうやって挙げられた魅力の因数一つひとつを自分の内に探りながら、これも備わっていない、あんなことも出来てないと減点法で読み、ああやっぱり私には魅力なんてないんだ、、と結論づけてしまうことだろう。

 

不完全でいいのだ。

 

「不完全は自分の強さにも魅力にもなる」と本書にもある。矛盾するかもしれないが、本書にある魅力の因数がいくつか欠けていようと、真の魅力は揺るがない。そのことを受け入れて自分の不完全さを慈しめる人こそ魅力的なのだから。そう考えると、本書で一番肝心なのはChapter6の『「不完全」は「魅力」に変わる』という章かもしれない。

 

池原さんとはそれなりに親しいので、本書の批判をしたい。親しいいからこそ、ただいい本でした、勇気づけられましたでは終わりたくない。

 

『魅力の正体』の欠点は、先にも書いたように池原さんの性格を反映して真面目で明晰に書かれていることだと思う。詩が足りない。

 

例えば、終盤で落ち込みからの再生がわかりやすく説かれているが、U理論に類似している。U理論であれば、よくわからぬ内面のうねりを自然の表象に映しながら詩的、感覚的に伝えるだろうが、本書はとてもわかりやすい。

 

魅力と向き合うということは、自分の人としてのあり方に向き合うということなので、言葉にならない、おさまりのつかない内面のうねりがたくさん生じる。真面目で明晰でわかりやすいルートからは、はみ出てしまうものも多いだろう。それを受け止める詩的な余韻が、あとほんの一つまみあったらなお良かったのにな、とか思う。

 

と、無理やりな難癖をつけたけど、本書は自信や魅力について悩む多くの人に寄り添ってくれる本なのは間違いない。池原さんや編集の滝澤さんの真摯な仕事に感謝。

 

池原さんはいろいろと逡巡しながら、本を手に取る人のことを考えてこの本を書いたのだろうなと思う。魅力の因数をこれだけ明晰に説く池原さんはもちろん魅力的な人だけど、でもやっぱり不完全な人だと思う。そして、魅力はあるけど自信について悩むこともある人だと思う。さらに、自分の魅力をきちんと引き受けている人だとも思う。

 

「魅力とは、誰かに褒められるためではなく、見せつけるためにあるものでもなく、人生や社会をよりよくしていくためのヒューマンスキル」と本書の最後にある。実に賛成。

 

自分を周りの人に受け入れてもらう力である魅力だけれど、やはり本質は自分を慈しむことだろうし、そのことで自分が輝けば社会が輝く。

 

繰り返しになるが、『魅力の正体』が、多くの人に自分の魅力をちゃんと知るきっかけを与えて、自信につながり、自分を慈しめる人を増やす手助けになればいいなと思う。

 

『魅力の正体』池原真佐子さん(大和書房)。 

自信と望むキャリアを手に入れる 魅力の正体 ~コンプレックスを強みに変える実践的レッスン~

自信と望むキャリアを手に入れる 魅力の正体 ~コンプレックスを強みに変える実践的レッスン~