余は如何にしてエシカルの徒となりし乎 ~FairTrade Drippack Projectの話/EDAYA前夜~

学生のみんなと活動する理由を問われれば、それは彼女/彼らが社会の変化を敏感に感じとり、体現しようとするからに他ならない。時に突飛でもあるその着眼を聞かせてもらい、どう社会に根付くかを一緒に考え、実行することで、僕は常に蒙を啓かれる。

 

次の次の世の中がどうなるのかの兆しを知り、その社会に向けて歩みださせてもらえるメリットは得難く、学生のみんなの相談話がどれほど荒唐無稽だったとしても、大いに費用対効果のある時間の使い方だと思う。(ちなみに、今まで最も荒唐無稽な話をしてハートに火をつけてくれた学生は、某メロンパンでコンゴにアプローチしようとする御方だった)

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2012年も暮れが近づく、寒い朝。知り合いの学生団体の代表が、「紹介して、相談にのってもらいたい学生がいる」といって連れてきたのが、学生団体FairTrade Drippack Project(通称ドリプロ)の副代表だった。ラオスからフェアトレードのコーヒーを仕入れて焙煎し、販売しているという。

 

運命とはわからないもので、この朝の来訪が僕の人生も大きく変えたことになる。

 

フェアトレードのコーヒーをどう営業していったらいいか、という相談だった。じゃあロットは、在庫は、値入率はとか、提案資料についてとか、テレアポについてとか、営業的な話もしたものの、なんかそういうことでドリプロのみんなが求めるものに応えることはできないなぁ、目指すものに近づいてはいないなぁ・・・と感じた。

 

大体、フェアトレードってなんやねん、と思った。

 

言葉では、フェアトレードを知っていた。商品も買ったことがある。でも、それに関わる人が何を大切にしているのか、どう活動しているのか、社会をどうしたいと思っているのか、全然知らなかった。なんで学生のみんなが、フェアトレードというものに一生懸命取り組もうとしているのかなんて分からなかった。

 

こりゃいかんなぁという反省と、この動きは今後の社会の潮流になるかもという予感から、フェアトレードに首を突っ込んでみたいと思った。

 

僕の師匠は、カンボジア和平の頃から国連の明石さんなどともに認定NPO法人日本紛争予防センター(JCCP)で活動していた人だったが、同団体の理事にU理論で有名な中土井さんという方がいた。師匠から教えられて、僕はU理論を学びたくて何度か研修に参加していたが、ちょうど中土井さんが大崎のパタゴニアでPeople Treeのサフィア・ミニーさんをよんでダイアローグイベントを行うことを知り、これだ!と膝を打って参加した。

 

パタゴニアで聞いたサフィアさんの話は衝撃が大きかった。というか、日々の暮らしのなかから社会にどうにかアプローチしたいというサフィアさんの苦闘に胸が苦しかった。末吉里花さんを知ったのもそのイベントで、素敵な詩を読んでくださった。

 

フェアトレードというものは、私が生きることが社会とつながっていることなんだと認識すること。私と、社会に生きるその他のみんなを対等に置くこと。そんな考えなんじゃないかな、と思った。学生のみんなは、そんな社会の兆しを感じて、フェアトレードサークルに入るのかな、と思った。

 

で、あれば、ドリプロに協力するために必要なのはテレアポの仕方ではない。フェアトレードの考え方を、社会の見方を、もっと当たり前なことにすることだろう。

 

2013年になった。

 

HASUNAの白木夏子さんがエシカルジュエリーという言葉とともに、いくつかの記事に取り上げられた。そして、ナナロク社さんから本を出すということを知った。これだ、と思った。

 

幸いにして、紀伊国屋書店新宿南店さんと親しくさせてただいていた。大学同級生であるユーグレナ出雲氏の出版記念講演を、学生団体主催で開催させていただいたご縁。講演を取り仕切ってくれたのはソーシャルの本棚というコーナーの担当者だったが、その方も大学の後輩でクラスもお隣だった。入ってよかった東大。中退したけど。

 

紀伊国屋書店新宿南店と連絡をとり、白木さんの本の出版記念として、ドリプロ主催でドリプロのみんなと白木さんの対談イベントをさせていただくことになった。これで、エシカルとかフェアトレードの認知度向上にも少しはつながるし、そんな活動に興味がある人にドリプロを知ってもらえる。ドリプロとしても、学生たちに向けた活動を行っているのではなく、広く社会に向けて自分たちの存在をアピールしていくきっかけになる。

 

イベントは4月開催となり、僕は白木さんともお会いし、HASUNAの本店(外苑前にあった素敵な旧本店)でHASUNAのみなさんと打ち合わせをしたり、『世界と、いっしょに輝く ―エシカルジュエリーブランドHASUNAの仕事』 という美しい本をつくったナナロク社さんを訪れたりして、準備を進めた。

 

が、困ったことがあった。ドリプロの学生と白木さんの顔合わせができない。まあ、対談なんて当日の調整で全然OKなのだが、それにしても礼儀上挨拶はしておく必要があると思った。

 

もう一つ。エシカルという言葉について。感覚的にはよくわかったが、でも掴みづらい。フェアトレードとの違いとかも。エシカルについても、もうちょっといろいろな人の話を聞いておく必要を感じた。

 

そんな困りごとを一挙に解決できる機会が訪れる。2013年3月24日、 ETHICAL FASHION JAPANさんの1周年イベントである、「エシカルショッピングナイト」。

 

今考えるとスゴいイベントで、エシカルファッションの関係者が一堂に揃っていた。ほんと、みんないた。そこにドリプロの学生と行って、ブースをだしていたHASUNAの白木さんに挨拶をして打ち合わせしちゃえばいい。ついでに、いろいろなエシカルブランドから話を聞けばいいと思った。

 

僕には、どうしても聞きたいことがあった。キャリアとか人事・HRの仕事が本業なのだが、フェアトレードを知るうちに、「労働市場フェアトレード」というのはあり得るのか、それはどんなものかを考えていて、エシカルフェアトレードの関係者に意見を聞きたかった。

 

そんな計画で、「エシカルショッピングナイト」に参加した。無事に白木さんとの話も済んで、いろいろなブランドの話も聞いて、存分に楽しんでいた。何人かに「労働市場フェアトレードって、あり得ますかね?」と聞いたが、あまりコレという回答はなかったものの、実に実にエキサイティングなイベントだった。(オルタナS池田さんの記事参照)

alternas.jp

 

気づけば、妙なブースが一つあった。HASUNAの隣。変な形の竹製品を置いている。他のブランドは何人かスタッフがいて、ちょっとキラキラした感じなのに、そのブースは一人しかいなくて、茶色い竹が置いてある。

 

よく分からん。

 

魔が差してブースに行き、一人店番をしていた方にブランドの話を聞き、さらに分からなくなったものの代表は大学の後輩らしく(入ってよかった東大。中退したけど。)、ためしに店番の方に「労働市場フェアトレードって、あり得ますかね?」と聞いた。答えは、「これから来る代表の山下さんなら答えられると思います」というものだった。そして衝撃の一言、「もう少しすれば、山下さんと首狩り族の人がきて鼻笛を吹くので待っていてください」。

 

EDAYAプロボノ1号肥留川さんがこんなことを言ったせいで僕は山下彩香という人に会い、「労働市場フェアトレードって、あり得ますかね?」という問いに答えをもらった。

 

FairTrade Drippack Projectのみんなと知り合わなかったら、僕はエシカルに興味をもつこともなく、EDAYAを知ることもなかった。その点で、恩義は計り知れないと思っている。

 

だから学生団体として代替わりしようとも、折々で一緒にイベントをさせてもらっているし、とても大事に思っている。エシカルペイフォワードをはじめたときも、ドリプロのコーヒーを扱いたいなと思い、実際に店舗とECに置けることになった。

 

そして10月30日には、またイベントを行ってもらえる。毎年毎年、こうやって一緒に何かができるというのは本当に幸せだよ。

 10/30(日)Link Project Vol.62 フェアトレードを乗り超えるサステナブルな環境、食、農を求めて

 

僕がドリプロによって新しい世界に導かれたように、イベントに参加した人に何かのきっかけがあるといいな。

 

その後の話。HASUNA白木さんとドリプロの対談イベントは、かなりの聴衆がきて大成功だった。僕はイベント全体を見ながら一つの決断をする。当時は会社を経営していた。友人と起業して、偉そうに専務をやっていたけど、この会社をたたむことにした。

 

そして人事として企業に入りつつ、学生たちと社会事業をしようと決心した。パラレルキャリアだよ、これからはと思った。

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加えて、ドリプロに受けた恩というのはこれだけではない。例えば、櫻井秋那さんというメンバーがおり、彼女のおかげで僕はR ethicalさんを知り、そしてMaiteの吉田彩子さんとお会いした。櫻井さんに言われて、国立までMaiteの展示を見に行って、吉田さんに会った。販売スタッフとして、エシカルブランドに関わることも教えてくれた。櫻井さんは、「エシカルを教えてくれた女性」とも言える。

 

ドリプロによってフェアトレードエシカルを知り、EDAYAと出会って、パラレルキャリアがスタートするわけだけど、そこから今日までの道程は、また別の話。