コオロギ戦記2016

【前回までのあらすじ】

時は2015年秋、I氏の暮らす新宿区某所の安アパート(でも築7年)の裏庭にはヘルヘイムの森の如くに草が生い茂り、コオロギたちが心安らかにコミューンを営んでいた。

 

ある日、剪定業者の魔手により無情にも草は跡形もなく刈り取られ、コオロギ達は安住の地を奪われる。故国を失ったコオロギ達はディアスポラと化し、安住の地を求めて隣接するI氏の安アパートへの侵略を開始する。

 

夜、帰宅したI氏は室内に黒い虫影を発見して戦慄するも、すぐに安堵する。Gかと思ったが、コオロギだと知れたためである。古来コオロギをペットとして飼うならいもあり、秋の虫の鳴き声を近くで聞けるのも風雅と感じた。が、誤りであった。

 

コオロギは、意外とうるさい。かなりの大音量で鳴き出す彼(オス)に辟易し、かつ布団脇で跳びはねられるのも気色悪く、I氏はコオロギの室外追放を企図する。そして失敗に終わる。雑誌でコオロギを追い立てるが、奴は左右にジグザグに跳梁して逃げる。やっと風呂場に追い詰めるが、ここから手づかみで捕まえて玄関より追放しようと試みて大いに空振りし、頭にきたI氏はシャワーで水責めをしてコオロギを殺害してしまう。

 

悲劇はここから始まる。

 

その夜、I氏の室内に侵入したコオロギは3匹であった。1匹は水死。1匹は玄関より追放となり生き延びる。そして1匹は、大捕り物の末に洗濯機の下に隠れるという自己防衛に出る。

 

コオロギを洗濯機の下に入れて鳴き声を聞いたことがあるだろうか。洗濯機というステレオを得たコオロギは、すごくうるさい。マジすさまじくうるさい。寝れない。ことここに至り、I氏のコオロギに対する敵意は確実なものとなり、共存、寛容、対話といった路線は失われ、殺戮の幕が開いたのであった。

 

幾たびかの侵略にI氏は翻弄されつつ、殺戮の罪を重ねて、2015年は暮れた。そして2016年・・・。

 

【前哨戦:ミント作戦】

コオロギ対策に余念のないI氏は、まずは裏庭でのコオロギ繁殖を防ぐべく、虫が嫌がる環境作りを試みる。すなわち、ミント栽培である。

 

世にミントテロという言葉があるように、ミントは繁殖が早い。そして虫が嫌がるハーブである。これを栽培すれば、コオロギの寄り付かない環境となるだろう。

 

が、この計画は失敗する。なんと2016年は剪定業者が8月初頭に草を伐採し、I氏が栽培を始めたミントも株のうちに刈られてしまったのである。無念。

 

【侵略1回戦:台風の遭遇戦】

2016年は台風の多い年である。暴風雨はコオロギだって避けたい。必然、室内侵略の動機も高まる。

 

9月20日の夕方、会社より外出していたところで台風による強制退社の指示が出され、I氏は閉め出しをくってしまう。やさぐれて帰宅したI氏を待っていたのは、2016年初のコオロギとの遭遇戦であった。

 

机の下で跳びはねるコオロギ(たぶんメス)に対して、容赦ない毒ガス攻撃を仕掛けて殺戮。その後さらに風呂場でもう1匹に遭遇し、得意の水責めで殺戮。1晩で2つの命を奪うという罪を重ねる。

 

【侵略2回戦:作戦名『かやり香 夕涼み』】

9月25日深夜。GEOにDVDを返すべく部屋を出たI氏の足元に激しくアタックをかます黒い影があり、I氏は驚いてドアに頭を打ちしゃがみこむ。そこで見たものは、虚をついた足元攻撃によってできた隙をつき部屋に侵入していくコオロギの姿であった。

 

慌てて室内に戻ったI氏は玄関先の箒で応戦。無事に水際での侵略防止に成功する。見ると、安アパートの廊下は複数匹のコオロギが跳びはねる百鬼夜行と化していた。。。

 

ここでI氏はかつてより準備していた化学兵器『かやり香 夕涼み』を取り出し、玄関・ガラス戸などの侵入口となる箇所に設置し、もくもくと炊き上げる作戦を開始する。これにより、虫の嫌がる煙、匂いなどを充満させ、いわば部屋に結界を張ろうという策である。

 

神楽坂で仕入れた化学兵器『かやり香 夕涼み』は自然素材の大変いい匂いで、少し炊く分には実に風流。好いものに違いない。しかし部屋の各所で一気に炊くという極端な暴挙に出たせいで、I氏はなんか目がしばしばして頭がくらくらしてきた。。

 

この状況を脱するには、空気の入れ替えという手段が必要なのだが、そうするとコオロギに向けて大きく侵入口を開けることになる。

 

さて、いかにすべきか。優柔不断の夜がふける。

 

・・・・To Be Continued

 

 

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