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耽典籍:文化が平和を作ることは叶わない。ペンは剣に敵わない。それでも。『暗幕のゲルニカ』原田マハ(新潮社)

耽典籍

「ペンは剣よりも強し」は、僕を育てた学校の校章で、同窓の諸先輩後輩も胸に刻んでいる訓戒だと思う。

 

が、その解釈は人それぞれに違っているのではないか。

 

ある人は、高橋是清のように国家の武力・戦争を文治によって引き留めようという覚悟と読むかもしれない。ある人は、暴力を抑える法や契約の理性と読むかもしれない。ある人は、ジャーナリズムの筆が権力に対抗する気概と読むかもしれない。

 

僕は、文学が争いのない社会を作ること、と読んでいた。文化が、平和を作るという願いだと。

 

ピカソゲルニカは、第二次世界大戦もスペインの独裁も止めることはできなかったし、ピカソが芸術家としてパリに留まり続けることは戦争の終結を早めもしなかった。ゲルニカが世界中の人に有名になった21世紀がきても、人の集団は他の人の集団を理解せず、憎み、殺して、戦争を続ける。

 

文化が平和を作ることは叶わない。ペンは剣に敵わない。

 

それでも・・、と足掻く人が、それでも沢山いて、そんな人たちの姿を模写することが、この本のテーマなのかな、と思う。

 

ただ一通りではない、多層的な読みのできる本で、芸術を愛し守り伝えようとするパトロンたちの姿や、キュレーターの姿、絵に想いを託す夫婦や親子の姿などは、人と文化の関わりの多様さのあらわれだろう。

 

真の主役は、ピカソの愛人であったドラ・マールなのかなと思う。自身も芸術家でありつつ、圧倒的な太陽であるピカソを愛し、仕え、煩悶する様、「サバイビング・ピカソ」を情感豊かに描いていて、読ませる。

 

「ペンは剣よりも強いか?」という大きな物語の芯に、人が人を愛することで悩むという極私的な物語があるというのは、ある種の真実なのだと思う。

 

『暗幕のゲルニカ原田マハ(新潮社)。

暗幕のゲルニカ

暗幕のゲルニカ