耽典籍:ソーシャルインクルージョンの、当事者の歩み。『午後には陽のあたる場所』菊池桃子(扶桑社)

2016年の初読み。

 

菊池桃子さんが、人事・HR領域でこれからどれほどの活躍をされていくのか分からないけど、冷やかしやお飾りの人ではない、と思う。「1億総活躍国民会議(笑)」での発言などもあったし。

 

どんな経験に基づいて、もっというと、どんな当事者意識をもって、キャリア形成を専門とし、また「ソーシャルインクルージョン」という話をするのか知りたい、と思っていた。

 

『午後には陽のあたる場所』菊池桃子(扶桑社)。

午後には陽のあたる場所

午後には陽のあたる場所

 

当事者の歩み、障碍をお持ちのお子さん(もう大きいようだけど)を育てながら働く女性としての歩みが、穏やかに綴られている。貫かれているのは、相手のあり方を思いやる視点だと感じる。

 

子供だった自分が親になったときの立場の変化や、ジェネレーションギャップ、思春期の子供たちとの関わり方など、違う考えを持つ相手を尊重する姿勢があらわされていて、それがソーシャルインクルージョンではあるけれど、元々そういう多様性を認める考え方のできる人だったのだろう。

 

あとは、肯定ということもテーマかと読んだ。自分で自分を肯定すること、他者を肯定すること、他者に肯定されること。キャリア形成のキーとして、「肯定」を置いているのではないか。

 

「このとき、人生の轍において、選ぶ道は2つありました。「あのとき、こちらの道に進んでよかった」と思えるように、努力を続けなければいけません。」

 

芸能界デビューを振り返ってのこんな述懐は、「人生に正解も不正解もないんだから、選んだ方をこっちが正解と言い張っときゃそれが正解」という乱暴な自説に通じるな、と思った。

 

面白いのは、「肯定」の逆、「自己否定」について。

 

「もしかすると、弱い人は、自分のことを肯定的にしか考えられないのかもしれない。自己否定すること自体、強くなければできないんじゃないか」というのは、確かにそんな気がする。「肯定」が基盤にあるからこそ「否定」できる、ということか。文化的なこともあるだろうし、議論して面白いテーマかも。

 

パラレルキャリアについても、言及がある。

 

「二つの世界があることで人との出会いも、学ぶことも2倍になっていることを感じます。その2倍の恵みは、自分だけではなく、普段助けてもらっている家族や周囲の方たちにも、何らかのかたちで還元できるでしょう。」

 

子育てがあり、短大の先生の仕事があり、芸能界の仕事もしているパラレルキャリアの人。パラレルキャリアは三方よしのキャリア形成につながる、と僕は思っているけど、そんな感覚を表現されてると読んだ。

 

推測だけど、この人は「1億総活躍」という言葉にすごく憤りを感じているのだろうな、と思う。「1億」という数字に丸めるために、どこかに追いやられてしまう「2千数百万人」がいることを絶対に許さないだろうな、と思う。穏やかな本だけど、それだけの強いものを感じる。

 

2015年、一度お話しを聞きたい人と思っていたけど機会がなかったので、今年は聞きたいなぁ・・と。