耽典籍:「健康格差」と「援助」と、自助のトンネル。 『大脱出 健康、お金、格差の起源』アンガス・ディートン(みすず書房)

今年一番読むのに時間がかかった本は、2015年ノーベル経済学賞受賞者アンガス・ディートンの『大脱出』だった。

 

 『大脱出 健康、お金、格差の起源』アンガス・ディートン(みすず書房)。

大脱出――健康、お金、格差の起原

大脱出――健康、お金、格差の起原

 

映画「大脱出」に例えながら、人類(広く世界各地の人類)は貧困から脱出できるのか、さらに逃げ切れるのか、を分析・考察している。特に、アフリカ・アジアなどの国々に産まれた人について。

 

ユ ニークなのは、貧困を所得の問題せず、健康の問題ととらえていること。物質的な豊かさよりも、産まれてから、病や死のリスクを少なくして生き延びることが できるか、に焦点があたっている。貧しい環境では、沢山子供を産み、死産も多く、成人しても病を予防する術を知らず、医療にかかることもできず、早く死 ぬ。「健康格差」と言い表されている。「健康格差」という不公正を是正できるか。

 

「今アフリカで死んでいる子供たちは、フランスやアメリカならたとえ60年前であっても死ななかったはずだ。このような格差はなぜなくならないのか、そして私たちはどうすればいいのだろう?」

 

本 書は、健康にかかわる世界中の様々なデータ(寿命や身長、死産率等)を用いながら、歴史も辿りながら、各国の動きに目配せをしながら「健康格差」を紐解い ていく。まさに大著。要は、難しい内容ではないけど冗長で読むの大変。だんだん、何を伝えたいのかよく分からなくなったよ。。。

 

おそらく、健康に関する知識を広く伝えること、を著者は核としたいのだと思う。エイズについての正しい知識がより伝われば、感染者も減るだろうし、レイプなども減るだろう、ということか。

 

「知識こそカギであり、所得もたしかに幸福の要素として重要ではあるし、幸福のほかの要素を実現するために必要なものではあるが、幸福の最大要因ではないというのが私の意見だ。」

 

でも読んでいくと、知識をどう伝えるのか、どのようなインパクト事例があるのかとかは・・あんまり触れてない気がする。。んだけど、僕がちゃんと読めていないからだろうか??

 

最後の第7章「取り残された者をどうやって助けるか」で、いきなり援助批判になる。ちょっと面食らう。アンガス・ディートンの憤りなど、生身の感情がぶつけられている章だった。国際援助について考えたい人は、この章だけ読んでもいいと思う。

併せて、ムルアカさんの『中国が喰いモノにするアフリカを日本が救う』を読むといいような章。

 

「矛盾するようだが、援助は私たちがやっている中でも特に邪魔になっている行為の一つだ。」「私が彼らに伝えるのは、自国の政府に働きかけ、貧しい人々の害となるような政策をやめるよう訴えること。」

 

少し感情的な章だな、と思うが、アンガス・ディートンはいわゆる途上国と呼ばれる国の人々のエネルギーや可能性を信じているのだろうな、と感じた。

 

自助を信じて、それを助けろ。そして自分たちも自助に努めろ、ということか。大脱出を試みるトンネルがもっと増えれば、そのトンネルを辿れる人も増える。それでも脱出から居残るかは、それぞれの問題。

 

イノベーションは気軽に買えるものではないし、必要なときにすぐ手に入るものではない。だが、潤沢な資金をともなう需要が結果に結びつくことは間違いない。」