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耽典籍:プラグマティックな遅攻。『鄧小平』エズラ・F・ヴォーゲル(講談社現代新書)

耽典籍

鄧小平が好き、というと、どういう印象を持たれるのだろうか。

 

天安門のことがある。最近の日中関係に思うこと、国際情勢下の中国の振舞いに思うこと、観光客に思うことがある人もいるだろう。

でも僕は鄧小平は好き。冷戦の終焉期、中国というコントロールが極めて難しい国家に、抑制をきかせながら転換と変革の芽を根付かせた卓越した政治家だと思う。

 

鄧小平といえば「○○○○」、という問題への正解は「改革開放」だろうが、僕はついつい「白猫黒猫」と答えてしまう。白い猫でも黒い猫でも鼠を取ってくるのがいい猫だ」という鄧小平の発言を、いつ知ったのかは覚えていないけど、聞いたときにいたく感嘆した。

 

ソーシャルセクターで活動していると、この「白猫黒猫」のことを忘れがちになる。社会をこのように良くしたい、というビジョンに黒猫が至らせてくれるなら、黒猫が正解。三毛猫を欲しがってはいけない。

 

「白猫黒猫」に象徴されるように、鄧小平は実にプラグマティックな人。同時に、「実事求是」という毛沢東の言葉を上手く援用しながら時間をかけて権力掌握を進めていく様は、遅い攻めのできる人という印象を与える。

 

ビジネスでも、サッカーでも、スピード一番で速攻重視だけど、大切なのは時間をかけて遅い攻めを続けられることだと思う。特にソーシャルセクターの仕事は、速攻では終わらない。10年やって、足掛かりができるくらいなものだろう。飽きずに、諦めずに、弛まずに、遅攻を続ける覚悟がなければ、社会事業なんてやめた方がいい。

 

「プラグマティックな遅攻」という、とても大切なことを、鄧小平の伝記は教えてくれる気がする。

 

本書は、2013年に日本経済新聞出版社より出たエズラ・F・ヴォーゲルによる伝記『現代中国の父 鄧小平』の補助本として、橋爪大三郎がインタビュー形式でまとめたもの。

橋爪説みたいなものが折々に入るが、鄧小平と戦前~冷戦末期の中国史が俯瞰できて、読みやすく面白い。

 

『鄧小平』エズラ・F・ヴォーゲル講談社現代新書)。

トウ小平 (講談社現代新書)

トウ小平 (講談社現代新書)

 

 

・・天安門事件について。

89年は、いろいろなことがあった。TVで、戦車の前に立つ男性の姿を見た。

 

思うことは、悪いことAと、悪いことBのどちらかを選択しなければいけない瞬間があるということ。覚悟とは、そういうこと。その瞬間のための、強い軸を持つこと。「プラグマティックな遅攻」のように。