耽典籍:戯言だが、女性活躍推進策で風俗と福祉の連携強化を図ればどうか。『女子大生風俗嬢』中村淳彦(朝日新書)

元・女子大生風俗嬢は、何人か知り合いにいる。現・女子大生風俗嬢は、誰かいたっけか。女子大生キャバクラ嬢は現&元ともに知人にいる。

 

『女子大生風俗嬢』中村淳彦(朝日新書)。

女子大生風俗嬢 若者貧困大国・日本のリアル (朝日新書)

女子大生風俗嬢 若者貧困大国・日本のリアル (朝日新書)

 

 やはり奨学金については考えるべきことが多いようで、「日本学生支援機構の“奨学金”は国と金融業者がタッグを組み、低所得者世帯をターゲットにした貧困ビジネスなのだ」とまで断じられている。

 

もう10年も親しくしている女の子がいる。彼女は母子家庭で、スポーツ特待で私立高校に進学したが怪我のために選手を続けられなくなった。特待生ではなくなったので学費が上がり、高校の時から奨学金をもらっていた。

 

まだ女子高生だった彼女と話しをしていて、「私は借金まみれの女なんですっ!」と言われて、そのにっちもさっちもいかないセリフに寂しく笑うしかなかった。

借金まみれの女子高生は、1年間フリーターをして少し借金を返し、それから借金まみれの女子大生になった。高校の奨学金と、大学の奨学金と、二つの借金の利息と返済計画の話をされて、もはや複雑でよくわからなかった。。

 

10代の頃から、自分の未来についての選択肢にある種の諦めや制限を設けてしまっている子だった。僕はそれがもどかしくて、散々けしかけて喧嘩をしたが、傲慢だったと思う。数百万の借金を負いつつ、時給800円で高校(バイトを禁止されていた)の目を盗んで働く女子高生の未来予想には、諦念があってもしょうがないだろう。

 

幸か不幸か、若くして借金を負ったせいで、彼女は高校の時から金勘定が上手かった。経理的なセンスといえる。まだ社会人となって数年だが、その才覚を伸ばせばそれなりに安定した仕事はできるだろう。

借金まみれの女に、せめてキャリアとしての成長があるよう常々願っている。

 

彼女が風俗っぽい仕事をしたことがあるかは、詳しく聞いていない。ちょっとした店のことは聞いたが、酒が好きでもないのに来るなと言われた。

 

本について。

「若者貧困大国・日本のリアル」という副題が痛い。AV・風俗についてのルポも多い著者なので、そういった業界についてニュートラルで、認めるところは認める姿勢は評価できると思う。

 

また、女子大生だけではなく、男子大学生についても章を割いているのは好感が持てる(好感というのも変だけど)。男娼とか売り専ボーイという表現だが、男子とて売春をしている学生がいるわけで、きちんとその実態を記すことは必要だろう。

 

売春や風俗が語られるときに、客体として女性のみが想定されるのは片面的で、男性だって売春をする。さらには、男性だって強姦される。

法律では、性関係において女性が(というか女性の身体・性器が)客体とされるので、男性の売春や強姦が想定されてこなかったが、先ごろの強姦罪改訂の話で男性への強姦適用も検討されているとの話があり、良いことだと思った(良いことというのも変だけど)。

 

また、日本の学費の高さ、というより教育への公的予算の低さは深刻な問題なのかなと思った。GDP比で約0.5%で、OECD加盟国で最低レベルだそうだが、教育にお金をかけられないというのは国家としての衰亡としか言えなかろう。

 

貧困に陥った若者や女性のセーフティネットとして機能しているのは、公的な仕組みではなく風俗業界のほうである、という説はよく聞かれる。

本書でも「風俗はセーフティネットか」という章で、40歳を越した風俗嬢や最格安店舗の風俗嬢の事例が書かれている。福祉担当者は格安デリヘルに張りつくべき、なんて提言もあるが、間違ってはいないと思う。

 

風俗がセーフティネットとなっている状況をよしとせず、ネットの再構築を叫ぶのもわかるが、風俗嬢を無理やり介護職に転職させようとする(そんな事例も書かれている)などではなく、今ある風俗という仕組みをどう社会の仕組みに包摂していくのかを考えることも大事かな、と思う。

 

現状は現状として認めて、活用するしかない。

女性活躍推進策として風俗業界を支援して、福祉と連携できるようにすれば、何かよい取り組みにできないだろうか。

 

と、いうのは戯言というか思考実験だけど、でも福祉や社会事業側がちゃんと風俗やJK産業の手法を学んで、セーフティネットを考えるというのは大切だと、改めて。