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耽典籍:モスラの小さな歌声に耳を傾けぬまま、ゴジラを美化し咆哮を代弁することは。 『忘れられた島々 「南洋群島」の現代史』井上亮(平凡社新書

ゴジラが太平洋戦争で南洋に没した日本兵の亡霊なのだとしたら、モスラは戦争の舞台として踏みにじられた南洋群島の人々の霊なのだろうか。

「ビキニ事件で日本人の被害にしか目を向けないなら、同胞の玉砕・集団自決だけで戦争の悲惨さを語り、島民の犠牲を無視するのと同じことになる。」

南洋のモスラは小さき者の声に導かれながら、悲劇の主人公面で荒れ狂うゴジラをたしなめるように、繭で包む。

 

『忘れられた島々 「南洋群島」の現代史』井上亮(平凡社新書)。

忘れられた島々 「南洋群島」の現代史 (平凡社新書)

忘れられた島々 「南洋群島」の現代史 (平凡社新書)

 

太平洋戦争は、″太平洋"の戦争だったのだと思い出される。地図の左側の国々が印象的なせいで、地図の下側の国々については、あまり知ることがなかった。南洋群島の近現代史を知ることは、世界の覇権を求める国家のエゴを感じ取ることなのだなぁと思う。

 

興味深かったのは4つ。

 

南洋群島をまず植民地化した強国はスペインだが、その占領は「南米大陸で暴威を振るったスペイン人の残虐な植民地政策」と記されている。安土桃山~江戸初期に、キリスト教の神父が手先となって侵略を進めている、と豊臣秀吉徳川家康に思わしめ、鎖国へと至らせたのは、こういうスペインの植民地政策のゆえなのかな。。

 

もう一つは、太平洋戦争時にアメリカ軍が南洋諸島の日本軍拠点を攻略していく時に、「飛び石作戦」として主要な島だけを攻め、あとは補給を断ち置き去りにしたという有名な話。これで17の島に取り残された日本兵は16万人で、4万人が餓死ということは知らなかった。遊兵を作っちゃうというのは、ビジネスでもなんでも下策だよなぁと。。

 

そして、南洋群島の戦争で犠牲となったのは、沖縄出身の人が多くいたということ。同時に、データに残らない目撃談として、アメリカ側では黒人が多かったようだ、ということ。

悲劇が起こる。その悲劇に誰よりも身を晒すのは、一団の中でより弱き者なのかもしれない。幾重にもなる悲劇の引き受け方に、気をつかいきれずとも心に留め置けるような繊細さは保っていたい。

 

さらに、モスラ

植民地となり、戦場となり、水爆の実験場となる土地に生きる当事者がいる。その小さな歌声に耳を傾けぬまま、ゴジラを美化し咆哮を代弁するのは、果たして人としての想像力と言えるのだろうか。