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耽典籍:日立への拭えぬ不信と、「積み上げ」の大切さとともに。『ザ・ラストマン』川村隆(角川書店)

2010年4月から2012年末まで、僕は日立グループ社内ベンチャーの立ち上げをした。まさに「川村改革」の最中、日立は創業100周年を迎え、大きな変革に揺れていた。

 

セゾンという真逆の文化から日立グループ入りした僕はそのギャップに苦しみ、「日立時間」や奇妙な略称にイラつき、後ろから切る・梯子は外す・出る杭の足は引っ張るという美風を呪い続けた。

 

それでも社内ベンチャーをスタートし、新卒採用をし、自分の事務所を持ち、残業200時間/月&210連勤というゴキゲンな仕事をしたが、挙げ句は会社と対立して起業をし、退職した。

そんな時期を思い出しつつ読んだ。

『ザ・ラストマン』川村隆(角川書店)。

 

日立グループに身を置いた3年弱で、植えつけられたのは日立に対する不信感で、正直それは今も拭えていない。

しかし、セゾンという見る前に跳んで崩壊したグループにはない、「物作りオリエンテッド」な思考、「積み上げ」を知ることになったのは、大きな財産だった。

イノベーションとか新規事業を考える場合、必ずこの「積み上げ」という帰納法的視点をもっていないといけないというリアリズムは、僕自身の中の思考の柱になっている。

 

書籍について。

「日立時間」を初めとして、ガラパゴス島の踊らない巨象になっていた組織をどう変えていったかより、やや抽象的なリーダー論が中心になっている。

 

第4章が人材育成論になっていて、面白い。

修羅場体験というか、タフアサインメント(ストレッチアサインメント)の大切さが書かれているが、この修羅場体験という語はちょっと流行している感がある。

日立のようにグループ企業がゴマンとあるコングロマリットなら、ストレッチアサインメントの先も沢山あるだろうが、中小規模の企業にはそのような先がないので、だからこそパラレルキャリアを、というのは僕の持論。

 

また、企業に所属すれば「会社の設備やお金を使って、一人では決してできない大きな仕事にチャレンジできる」、という箇所は、〇〇の一つ覚えに起業起業という学生などに聞かせたい。

またリベラルアーツを学ぶべしという点は、G型大学だL型だと喧しいなかで物を知ることをサボる学生に聞かせたい。

 

日立は人事制度も先進的に変え、注目はされた。

が、先にも書いたように僕自身はどうにも不信感の残滓があるので、日立の改革がどのように行き着いて、いま息づいているのか、誰かにゆっくり聞いてみたいと思い続けている。