耽典籍:人生の際で人が選択に迫られる様を「美しい」と呼ぶことは不遜か。『キルギスの誘拐結婚』林典子(日経ナショナルジオグラフィック社)

(2014.9.28)

今のところ2014年ベストの1冊が、貸し先から帰ってきた。
解釈の言葉もない写真集。

 

キルギスの誘拐結婚』林典子(日経ナショナルジオグラフィック社)

稲葉 哲治さんの写真

キルギスで行われている誘拐結婚の、実際の数名のケースに寄り添い、一人ひとりの誘拐の過程から、説得、拒絶もしくは結婚、その後までを収めている。

 

下記追記というか解説。

 

まず誘拐結婚という刺激的な言葉だけど、ボコ・ハラムとか民族浄化とかいう凄惨な環境下での行為ではない。誘拐する側も、される側も、きちんと社会生活を営み、教育も受け、インテリ層(教師も!)いる。
そして誘拐結婚後は、ごく普通な夫婦の日常を送る(ことが多そう)。

 

旧弊的な家同士で結婚が決まってしまう時代が変化し、それぞれの自由意志による恋愛結婚が広まったために、暴走して好きになった相手を強引にさらってきて、結婚を迫るケースがでてきて増えてしまった。


シャイなのに行動的な人たちなのか??

 

誘拐されてもレイプとかをされるわけではなく、家に閉じ込められてワラワラと年長者がきて説得されるらしい。
女性に拒絶権はあるので、断り抜くこともできるし、携帯で助けを呼んだりもできなくはない。

 

でも純潔という観点から男性の家に入ってしまうとキズモノのうような見方をされるおそれがあることや、年長者を敬うため説得されると聞き入れてしまうこ と、面白いのは家の出口に食べ物を敷かれてしまい、食べ物をまたぐことはできないから外にでられなくなってしまったから、等々の理由から結婚を受諾する ケースが多いようです。

 

自由恋愛の延長(というか暴走化)という面があるので、親の反対を押し切るための駆け落ち手段につかわれたり、その後幸せな家庭を築けたりすることもある。
でももちろん、意に沿わない結婚なためDVなどにつながったり、自死に至ったりもする。

 

本書はそんな「キルギスの誘拐結婚」を追った写真集です。

 

一人ひとりの表情が、心に残ります。

そして誘拐結婚という異常の脇での日常。お兄ちゃんが今日お嫁さんを誘拐してくるよ、とでも言われたのか、無邪気に結婚式の準備を手伝う子供の写真とか。

 

よいことか悪いことかといわれれば悪いことなのだろうし、残るべきか無くなるべきかといえば無くなるべきことだと思う。間違いなく。

 

でも人間の選択とか、幸せとか、いろいろ考えると不思議な気持ちになって言語化しない。

あと、写真家・ジャーナリストというのは不思議ですよね。
誘拐する側される側も、隣で写真撮られてるってどうなんだろう。。そんな写真論も考えるといろんな読み方ができる本です。

 

女性が男性を誘拐して結婚するケースがあったら面白いのに、ないのかな?